— 海士診療所へはどんなときに?

油井さん東地区で小さな薬局をやっています。わたし自身は病気をしないけど、2004年に主人が脳梗塞で足がたたなくなって、毎月診察でお世話になっています。そのときにわたしも一緒に血圧はかってもらったりしていますね。診療所のみんなのこと? もちろん知った顔ですよ。

藤井さん2005年に長野県から引っ越してきました。出身は奈良県です。主人が、捕れた魚を高度な冷凍技術で鮮度を保つCASシステムの仕事に就きたいと、下見もせずに海士町行きを決めました。子どもが小さかったこともあったので、事前に役場の人に医療や保育の心配事を相談して、ひとつずつ解消してから来れたもの大きかったですね。たとえば、夜中に熱を出したら診てもらえるのか? とか、大きな病気や怪我をしたらどうなりますか? とか。来てからは、当時もらった答えの通りの対応をしてもらっています。

— 夜中に熱を出したら、どうするんですか?

木綿看護師夜間の診療所には守衛さんがいて、電話で対応します。その後、当番の先生と看護師に連絡して、診るという流れですね。

藤井さん親はそうなるとあたふたするだけなんですが、先生に「朝まで様子見てください」って言われるだけで安心というか。的確に判断してもらえるので助かります。

油井さんそうよね。うちもお父さんがちょっと調子悪いときに家に何度か来てもらったことあります。何かあると、さっと来てくださるので、助かりますね。

— 島外から来る若い看護師さんについてはどう思いますか?

油井さんありがたい存在です。前田さんも、はじめは「あら、男の人だわ」って思っていたけど、とても親切でよく声をかけてくれるしね。遠慮なく何でも言えるのがいいです。

— 都会とはまた違う関係ですね。

上谷看護師そうですね。たとえば風邪で子どもさんが来られて、数日後にその子が遊んでいたりするのを見かけると「あ、治ったんだ」ってほっとします。その子のお母さんと会えば「よくなったんですね、よかったですね」って話ができる。そういうのって都会の看護師さんは体験できないことだと思います。

油井さん都会で、病院行くって言ったら緊張するでしょ。でもここは待ってる人もみんな友だち。いろんな話をしながら待ってるから、じっとだまってる人、少ないんじゃないかしら。

— 病院の混雑具合は島の生活のサイクルにも影響しているそうですが?

木綿看護師そうそう。天候によるんです。ずーっと雨が降って晴れたりすると、みんな畑行ったり洗濯干したりするから、診療所に来る人が少なくなる。「今日ヒマだねえ? あぁ、晴れてるけん(晴れてるから)だわ!」ってよく話してます。

上谷看護師田んぼのシーズンも少ないですよね。ほんと、こういうところは特別です。

藤井さんここに来てびっくりしたのは、みなさん声が大きいこと。お年寄りが多いので、名前をはっきり呼ばないと伝わらないかと思うんですが、声がすごく通るんですよね。気持ちいいほどに(笑)。

上谷看護師本土は診療室の中から先生がマイクを使って患者さん呼ぶのが多いですよね。ここでは、看護師が患者さんを呼ぶんです。マイクもないので、自然と声が大きく……。

藤井さんそれに、一人ひとりに声をかけてくれるというか。お年寄りには肩に手をおいたり、子どもにはひざまずいて同じ目線になったり。「なんてあったかいんだ!」って。患者じゃなくて、一個人を見ている感じが嬉しいですよね。

— 島外の病院に行くのは大変ですか?

油井さん大変ですね。先日、主人が脱腸の手術で出雲市の病院に行きました。車椅子の主人を介護タクシーに乗せて、船に乗せて、またタクシーに乗せて。先生は隣の島の病院をすすめてくださったんですけど、出雲には娘も孫もいるので、何かあったときに助かるかなと思って。紹介状を書いていただいて、すぐに入院できると思っていろいろ用意して行ったんですけど、「今月末にまた来てください」って言われて。

車椅子で海士まで帰るのはすごく大変なので、困っちゃってね。隠岐にまた帰るのが大変なので、入院まで預かってくれませんか? と訊いたんですが、断られちゃったの。それで、海士町でお世話になっている担当のケアマネジャーさんに電話して、出雲で預かってくれる施設がないか聞いてみたんです。そうしたら、30軒くらい出雲の施設に電話をしてくれて、よさそうなところがあるよって教えてくださってね。すぐに行って、受け入れてくださったので助かりました。そこで3〜4週間預かってもらいました。

— 島のネットワークもすごいですね!

藤井さん連携もとれていますよね。都会だと専門分野に分かれて看護師さんがついていたりしますけど、診療所のみなさんは全てできる。何を相談しても安心という、わたしたちには強い味方です。いい人材が入ってきて、人が増えてくれるともっと嬉しいですね。

— あったかいコメント、ありがとうございます(笑)!

座談会
参加メンバーの紹介

  • 木綿絵美
    看護師

    木綿絵美

    海士町出身。座談会メンバーの中では一番海士診療所歴が長く、いつも周りに笑いの絶えない皆の先輩的存在。

  • 上谷真弓
    看護師

    上谷真弓

    高校時代を海士町で過ごす。笑顔がチャーミングな診療所のムードメーカー。

  • 前田拓郎
    看護師

    前田拓郎

    2008年に鹿児島から移住。「小さなことでも頼まれたら断らない」がモットーの、診療所の頼れる存在。

  • 油井朝子さん
    海士町の方

    油井朝子さん

    海士町の東地区で薬局を営んでいる。実は、今回の取材で写真撮影を担当したカメラマンの、実のおばあさまというご縁も。

  • 海士町の方

    藤井優子さん

    2005年に家族で長野県から移住。役場の総務課で働きながら、3人のお子さんを育てている。